塾講師に懸ける

単純化してしまうと、企業活動は山登りのようなものだ。 山登りの場合、目的地の設定とは、文字どおり今度はどの山に登るかを決めることだ。

仮に富士山だとしよう。 そうすると次はどういうルートで頂上を目指すかを決定しなければならない。
静岡側から登るのか、それとも山梨側か。 あるいは裾野から歩いて行くか、五合目まで車で行くのか。
そういういくつかの選択肢からひとつを選ぶ。 その後も持っていくものを分担したり、集合場所と時間を連絡したり、地図を見て休憩場所の確認をしたりと、やらなければならないことがたくさん出てくる。
そういうものを整理して、これは誰がやるとか、これは全員が最優先でやらなければならないとか、リーダーが中心となって準備を進める。 ここまでの仕事が企画である。
この企画ができたら、次はいよいよメンバーが一丸となって頂上に向かうのだ。 これが企業活動になると、利益や主力商品のシェア、時価総額などが、到達すべき目的地となる。
そしてその目的を達成するための戦略が、道筋やなすべきことというわけだ。 要するに企画とは、「目的地を定め、そこに至る道筋のオプションを考えて、最善のものを提案し、そのためになすべきことをはっきりさせること」ということになる。
こう考えると、企画は何もトップ経営者にだけ必要なわけではない。 あらゆる部門のさまざまな局面で、企画という行為が行われている。
たとえば、営業部門なら営業目標という形で、目的地の設定がなされる。 その営業目標をクリアするために、競合やユーザー、それにチームの個々のメンバーの実力などを考慮して、これで行こうという営業戦略を立てるのも、まさに企画そのものだ。

製造や物流部門なら、製造ラインの生産性向上、在庫管理の効率化、などといった問題が常に存在する。 そういう問題を解決するためには、やはり複数ある道筋やなすべきことから、最善の解決方法を選択しなければならない。
つまり、ここでも企画が発生する。 もっと細かく言うと、個人の仕事だって、目的地、道筋、なすべきことが設定されていなければうまくいかない。
ということは、マニュアルで動くわけではない。 ホワイトカラーの仕事自体が、常に企画を伴っているということになる。
もちろん、若手サラリーマンやサラリーウーマンの場合は、上司が目的地だけでなく、道筋となすべきことまで決めてしまうことがある。 これなら確かに部下は自ら企画をしなくてもよい。
そういう仕事は、考える必要がない分、一見楽そうだが、そういうものだと受け入れてしまうのは、正直なところ最悪の選択だと思う。 何といっても楽しくないだろう。
仕事というのは自由度が高く、自分でコントロールできる範囲が広いほど楽しくなるし、もっと楽しみたいと思うから勉強しようという意欲も湧く。 言われたことだけやればいいという指示待ちでは、仕事の醍醐味や楽しさを永久に味わえないことになってしまう。
人生においてこんなに不幸なことはない。 Tに代表されるような、「現場の工夫」ということを強みの根幹にしている会社を考えてみよう。
たとえば、生産現場に工夫を求めるということは、今よりも少しでも良いやり方を「企画」せよ、そして仕事を楽しんでほしい、ということだ。 マニュアルがものを言う。

ファーストフードやコンビニ各社を見ても、強い会社は、必ず「現場で考える」ということを求めている。 「自由と規律」という切り口で考えても、どういう状況でも自分で「企画」する余地を残す、必要なら、その余地を闘ってでも勝ちとる、ということが、自分自身のビジネス人生のためにも、会社のためにもベストだと考えよう。
さて、企画というのは、経営知識と、その知識を使う力が身につけば、必ずできるようになってくる。 そして、ここが大事なのだが、企画能力がある人は、どこの会社でもいつだって不足しているのだ。
あいつは企画ができるとわかれば、まず会社が放っておかない。 必ずいつかチャンスがやってくる。
そのチャンスを活かせば、自分の部や課だけでなく、事業部や会社全体というように、かかわる企画のスケールもどんどん大きくなっていくのは間違いない。 企画のできる人は、その分、仕事からどんどん大きな喜びを得られるようになっていく、ということなのだ。
とにかく自分で企画ができて、それを仕事に活かすことができるのは、働く喜びそのものだし、それをさらに大きくしていく秘訣であるということを、ぜひともわかっておいてほしい。 企画力は、「課題設定力、情報収集力、分析力、創造力、統合力」の五つの要素からなると述べた。
この五種類の「使う力」が、企画という仕事の中で、どう相互につながっているのかをまず見てみよう。 いい企画ができるかどうかは、どんな知識や情報を知っているかや、定跡・定石をどれだけ知っているかで決まるのではない。
最初のポイントは、今、どういう課題があり、それに対してどういう解が必要なのかを設定する力、つまり「課題設定力」である。 たとえばある支店で営業戦略を作るとなったら、多くの人はいきなり自分なりの打ち手なり、解決策なりを考えるところから始めるだろう。
しかし打ち手や解決策は、何を課題と設定するかで違ってくるはずだ。 部門全体の生産性が低いことを課題だと考えて、「全員今より二割余計に働こう」と考える人もいれば、「仕事を洗い直して、無駄なものを極力排除し効率を上げよう」という人もいるかもしれない。
一方、何割かの苦労している営業マンを鍛え直すことが課題だと設定し、「成績のいい人のやり方を学ぶ仕組みを作る」という考えもありうる。 経営的な視点に立って、「他社と比べて、営業マンを増員するスピードで劣っている」ことを課題だと設定し、「他部署との連携による人的資源の有効利用」を考えたり、採用・教育のあり方を抜本的に考え直す、というやり方もあろう。
課題のレベル感というか、設定範囲というか、仮説ベースでよいので、まず「これを課題とする」という設定ができて初めて、さまざまな打ち手なり解決策を考えることができるようになる。 質の高い課題設定が、「使う力」の発揮しどころどの範囲で課題を設定すればもっとも適当かという判断ができる、というのは「使う力」が上がってきた一つの証拠だ。

今何が問題になっていて、何に対して答えを出さなければいけないのか、ということを正確につかむのは、意外と難しい。 これができるようになると意識してみよう。
まず、企業が目指す方向と、その中で自分のチームが求められていること、さらにそこでビジネスリーダーとして自分が解決しなければならないこと、を考えてみよう。 これが見えていないと、適切な課題設定はできない。
一種の社内常識がないと、そもそもの立ち位置がずれてしまうわけだ。 さらに、実際の「頭の使い方」としては、課題の仮説と、答えの仮説の両方を行ったり来たりしながら、課題自体を固めていくというプロセスになる。
極端な言い方をすると、課題と答えは同時にできあがってくるのだ。 これも大事なコツだ。
世の中で、仮説思考ということの大事さがようやく理解されてきたが、これは、課題設定力を高めるということとほぼ同義語だ。

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